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「実桜、何かあったのかな?」
部屋の外からボクシム先生の声が聞こえる。
私が屋敷に戻るとすぐに部屋の中に入りそのまま出てこないので、どうやらボクシム先生が心配して様子を見に来たようだ。
「実桜、部屋に入って少し話をしてもよいかな?」
「は、はい…」
私が返事をすると部屋の扉が開き、ボクシム先生が私の様子を窺うように部屋の中に入ってきた。
そして私の目の前に来て静かに腰を下ろした。
「実桜、何かあったのかな?」
「…………」
「皇子様に何か言われたのかな?」
「…………」
「そうか…。では話せるようになったらまた聞かせてくれるかな?」
ボクシム先生が優しく頷きながらニッコリと微笑む。
私は首を小さく横に振った。
「どうしたのじゃ?」
「ボクシム先生…。わ…、わからないんです…」
そう言葉を発した途端、涙がぽろぽろと溢れてくる。
「わからないとはどういうことじゃ?」
「わたし…、どうしたらいいかわからないんです。皇子様から…、皇子様から…」
「皇子様がどうしたのじゃ?」
「皇子様から…、こ、婚姻をして…、共に生きていきたいと言われました…。それでどうしていいのかわからないんです…」
ボクシム先生の包み込んでくれるような温かい声が、心の中にどんどん染みこんでいく。
私は自分の中で抱え込んでいたものが溢れ出したように、声を上げて泣きじゃくった。
「ほぉー。皇子様が実桜と婚姻をして共に生きていきたいとな?」
「はい…。皇子様は…、皇子様は…」
ボクシム先生に伝えたいことがたくさんあるのに、嗚咽で言葉が続かない。
「実桜、焦らなくてよい。ゆっくりでよいから」
肩を震わせて涙を流す私の頭をボクシム先生が優しく撫でてくれる。
「お、皇子様は…、私がシンファの国にいてくれるなら…、王宮で一緒に暮らそうと…。そして…、私が日本に帰りたいのであれば、皇子様が日本に来てくれると…、言われました…」
「そうか。皇子様がそのようなことを…」
「はい…。それで、わ、わたし…、どうしていいのか分からなくて…」
ボクシム先生は私の話を聞いても別段驚く風でもなく、私の言葉を全て受け入れるように大きく頷いた。
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