シンファの国へ

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学校の帰りに桜守神社におみくじをひきに来たこと。 巫女さんにすすめられて桜の花を見ていたこと。 桜の下にいた貴族風の2人の男女を見ていて、気づいたら気を失っていたこと。 目が覚めて拝殿の前に戻ってきたら、この屋敷の中だったこと。 頭の中が混乱して自分でも何をどう話しているのか分からなくなっている私の話を、その男性とおじいさんは嫌な顔ひとつすることもなく真剣に聞いてくれた。 そして私の話を聞き終わった後、そのイケメンの男性がゆっくりと口を開いた。 ここはシンファという国で日本ではないこと。 日本という国は今まで聞いたことがないこと。 日本への帰り方は、おそらく誰に聞いてもわからないこと。 そんなことを説明されても、私には今自分の身に起きている状況が全く理解できなかった。 だって。 ほんのついさっきまで、この場所にあった神社で参拝しておみくじをひいて、巫女さんとお話していたんだから。 なのに、何がどうなって、いきなりどうして、こんな理由の分からないことになっているのか。 家に帰れないどころか、日本という国が分からないなんてありえない。 おそらく世界中のほとんどの国の人たちが知っているだろうと思われる日本なのに、その日本を知らないなんて、そんなことあるはずがない。 パパやママ、優里、そしていろんな人たちが、帰ってこない私を今ごろ必死になって探しているはず。 連絡することはおろか、生きていることすら誰にも伝えることもできないなんて。 私はこれからどうなってしまうの? 早くお家に帰りたい。怖いよ…。 知らない国、知らない場所、知らない人、知らない景色。 もう一生日本に帰れないの? そんなの嫌。絶対に嫌。 パパ、ママ、助けて。お願い…。 不安と恐怖に襲われた私の目から、大粒の涙が溢れ出してきた。
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