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「お、皇子様、おはようございます…」
普通に話しかけたつもりなのに、とてもぎこちなくて声が上擦っている。
自分で思っている以上にかなり緊張しているようだ。
ヨンウォン皇子は黒紅梅の衣装を身に纏い、いつもにも増して妖艶な美しさを漂わせていた。
その美しさに自然と目が奪われてしまう。
皇子は難しい顔をしたまま「では、行くか」と言って、門の方へ歩いて行き始めた。
答えが出ないまま、皇子の後ろについていく。
皇子は無言で門の外に繋いでいた馬に乗ると、続けて私を乗せ、手綱を操りながらこの間の高台へと向かい始めた。
私の気持ちとは裏腹に、馬は皇子の手綱に操られながら、とても機嫌が良さそうにゆっくりと歩き進んで行く。
馬上から見える景色は、いつも見ている景色なのに、なぜか全く違う景色に見えた。
高台へと近くにつれ、鼓動が早くなり、どんどん緊張が増していく。
まだまだ距離があると思っていたのに、あっという間に高台に到着してしまった。
高台に到着すると、5日前はつぼみだった桜の花が一斉に花開き、満開に咲いていた。
「皇子様、ほんとに桜が咲きましたね。満開になってる。きれい…」
「そうだな。とても美しく咲いておる。やはり満開の桜には魅了されてしまうな」
「ほんと。きれい…」
満開の桜の花を見上げていると、1年前、御衣黄の桜の下で皇子と出逢ったことが蘇ってきた。
最初に皇子に逢ったときは本当に怖かった。
突き刺さるような視線と冷たい声に殺されてしまうのかと思った。
恐怖で気を失ってしまい、気づいたら全く知らない国にいた。
どうしてこんなところに来てしまったのかと、毎日塞ぎこんでばかりいた。
そんな私をボクシム先生やミランさん、ミンジュンさんが助けてくれて、サラ皇女やソユンさん、ソンヨルさんという知り合いもできた。
そしていつからか皇子に惹かれている私がいた。
皇子と出逢い、初めて人を好きになるという気持ちを知った。
それは、うれしくて、幸せで、でも切なくて、辛くて、そして愛しいものだった。
そんな皇子からの、真摯で誠実な告白。
私の気持ちは…。
『実桜がどうしたいのかを一番に考えるのじゃよ』
ボクシム先生の微笑む声が遠くから聞こえる。
私はその声に答えるように大きく息を吐いた。
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