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「実桜、そろそろ返事を聞かせてくれるか?」
桜の花を見上げている私に、ヨンウォン皇子が後ろから問いかける。
皇子の方へ振り向くと、ヨンウォン皇子が強張ったような表情で私の顔を見つめていた。
「はい…」
皇子の真剣な眼差しに、緊張で身体が震え、思わず視線を逸らしたくなる。
(皇子がこれだけ真剣なんだから、私もちゃんと真剣に答えなきゃ…)
私は両手の拳を握って、ギュッと力を入れた。
「皇子様…。私はこの国の人間じゃありません。だから私は皇子様の婚姻の相手としてふさわしい家柄でもないし、皇子様の力になることも、権力や財力も何にもありません。皇子様に何もしてあげることができないんです…。ごめんなさい。皇子様…」
私はヨンウォン皇子に頭を下げた。
皇子は呆然とした表情で私を見つめている。
「だけど…。でも…、やっぱり私、皇子様のそばにいたいです。皇子様とこれから逢えなくなるのは嫌です。皇子様に何にもしてあげることできないけれど、皇子様が笑ってるときとか、うれしいときとか、辛いときとか、泣いてるときに、皇子様のそばで同じ気持ちになって、一緒に生きていきたいです…。私は…、皇子様が好きです」
「…………」
ヨンウォン皇子が驚いたように目を見開いたまま、無言で私を見つめている。
(皇子…様…?)
私を見つめたまま何も言ってくれない皇子への不安と、皇子に気持ちを伝えたことで張り詰めていた緊張が解けて、私の足がガタガタと震え始めた。
「実桜…」
突然、皇子が私の手を引き、私の身体を強く抱きしめた。
皇子の身体が小刻みに震えている。
その震えを隠すように、私を強く強く抱きしめながら、皇子が耳元で囁いた。
「私が…、私が…、今日どれだけ不安で不安で仕方がなかったのか分かっているのか? 実桜の返事はどちらなのかと、もう朝から気がおかしくなりそうだった」
「皇子様…」
「そんな色っぽい化粧をして、髪の毛まで結って、可愛らしい顔で私を見つめるし」
「こ、これはミランさんが、せっかくだからってお化粧してくれたんです…」
「全く…。私をこんなにやきもきさせるとは…」
そう言って皇子は私の顔を見つめ、わざとらしくジロリと睨んだ。
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