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「そこのお嬢さん、可愛い顔してるねー」
私が簪を眺めていると、いかにもガラの悪そうな男たちが周りを取り囲んできた。
その風貌からは、関わったら危険なことになりそうなオーラがありありと滲み出ている。
(こっ、怖い。早く逃げないと)
よく時代劇のドラマに出てくるような、市場を荒らしているごろつきたちのようだ。
私は手に取っていた簪を置いて、男たちと目線を合わせないように顔を背けた。
「お嬢さん、もっとゆっくり簪を見てていいんだぜ」
男たちはニタニタと薄ら笑いを浮かべながら話しかけてくる。
私は顔を背けたまま、少しずつ後ろへ下がり、この場から逃げ出そうとした。
そんな私を逃がさないよう、3人の中のリーダー格だと思われる男がいきなり私の手首を掴み、顔を覗き込んできた。
格闘家のような大きな体格をして、眼光が鋭く威圧感があり、四角い顔の形をしている。
「放してください」
私は掴まれた手首を振りはらった。
「なんだよ。もう帰っちまうのか。それならこれから俺たちと一緒にいいところに行こうぜ」
男たちはしつこく私にまとわりついたまま、再び私の手首をガシッと掴む。
「やめてください」
私はもう一度掴まれた手首を振りはらおうとした。
だけど、今度は男の力が強すぎてどんなに力を入れても振りはらうことができない。
いつの間にか周りにいた人たちは遠くへと離れていき、巻き込まれることを恐れ、誰一人私を助けてくれようとはしなかった。
宝飾品屋の店主でさえも逃げるようにさっさと店の中へと引っ込んでしまった。
「もう、放してください」
私が叫んでも男は掴んだ手首を放すどころか、私を決して逃がさないようにさらに力を入れる。
「この女は上玉だ。しっかり捕まえろ」
リーダー格の男が引き連れていた2人の男に指示をした。
そしてリーダー格の男が私の手首から手を放した瞬間、2人の男が私の左右に立ち、私の腕をがっしりと掴んだ。
「やめてってば。もう、放してー」
肩と腕を振り、掴まれた手を振りはらって男たちから逃げ出そうとするものの、がっしりと両腕を掴まれている私はますます身動きがとれない。
「放してー。誰か助けてー」
何度叫んで助けを求めても誰も助けてはくれず、男たちは抵抗する私をどこかへ連れて行こうとし始めた。
その時。
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