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何か言い返してくると思っていたヨンウォン皇子が急に黙ってしまったので、私は少し顔を動かし、横目でチラリと見た。
(急に黙っちゃったけどこの人どうしたんだろう?)
ヨンウォン皇子は何か考え込むように難しい顔をしている。
しんと静まり返ったまま、何とも言えない重い空気が流れる。
(ここから早く帰りたいんだけどな…)
私はその居心地の悪い重い空気を打ち消すかように口を開いた。
「あの、すみませんけど…」
「ところでお前…」
私が口を開いたと同時にヨンウォン皇子も口を開いた。
バチンと視線が合う。
私は自分を落ち着かせるように「ふぅー」と大きく息を吐きだした。
「あのですね、皇子様。私はお前ではありません。実桜です。みお!」
ヨンウォン皇子は私から視線を外し、気まずさをごまかすように「んんっ」と軽く咳払いをした。
そして、さっきよりもかなり柔らかい口調で質問をしてきた。
「とっ、ところで実桜、どうしてひとりで市場まで来たのだ?」
「この間…、ミンジュンさんと市場に来た時に簪屋さんとか雑貨屋さんを見つけて、それでゆっくり見てみようと思ったからですけど」
私は皇子と視線を合わせないように両手で目を押さえ、涙を拭くようにして答えた。
「なるほど。そういうことか。では私がボクシム先生の屋敷まで送っていってやる」
「いえ、大丈夫です。ひとりで帰れます」
私は首を大きく横に振った。
「大丈夫だと? 市場にひとりで女人がいたら危ないと言ったであろう。またごろつきたちに襲われたらどうするのだ」
「…………」
皇子にそう言われ、言葉に詰まる。
この皇子の前からすぐにでも立ち去りたいけど、さっきの人たちにまた襲われたら怖いのは確かだ。
今回はたまたま皇子が助けてくれたけど、もしまたあんな目にあったら次こそ妓楼に売られてしまうかもしれない。
皇子に送ってもらうなんてすごく嫌なんだけど…。
これ以上ヨンウォン皇子とは一緒にいたくなかったけれど、またごろつきたちに襲われたらと思うと、私は渋々皇子の言うことに従うしかなかった。
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