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屋敷へと帰る間、ヨンウォン皇子の隣を歩くのも癪なので、私は皇子の数歩後ろを歩いていた。
ヨンウォン皇子は紅梅色の衣装に黒い笠の帽子をかぶり、両手を後ろで組み、姿勢よく凛として歩いている。
色が白く艶っぽい皇子には、その紅梅色の衣装はとてもよく似合っていた。
すれ違う女性たちが、ヨンウォン皇子の顔を見てうっとりとしながら振り返っているのが分かる。
(偉そうで嫌な人だけど、歩く姿はきちんとしてるのね)
その姿はとても礼儀正しく好感が持てた。
そんな皇子の姿を見ながら後ろを歩いていると、前を歩いていたヨンウォン皇子が急にクルリと後ろを振り返り、私の前までやってきた。
そして目線を私の高さに合わせ、私の顔を見上げるように覗き込む。
(なっ、なに? びっくりするじゃん)
(だから顔が近いんだってば。もう!)
いきなり顔を覗きこまれた私は、一歩後ろに後ずさった。
一歩下がった私に近づくように、皇子はそのまま一歩前へと足を踏み出す。
「あのなぁ、ここは危ないと言ったであろう。後ろを歩いているとまたごろつきに狙われるぞ。ちゃんと私の視界に入るよう私の横を歩け。わかったか」
ヨンウォン皇子の口調は命令口調ではあったけれど、さっきみたいに怒っている風でもなく、私のことを心配してくれて言ってくれているようだ。
私は無言のまま、仕方なく皇子の横へと移動した。
でも、せめてもの抵抗で、右側を歩いている皇子の姿がなるべく自分の視界に入らないように、顔を左側に向けて歩き始めた。
左側に顔を向けて歩いていると、先ほど見ていた簪屋が見えてきた。
テーブルの上に並べられた簪や宝飾品を横目で眺めながら店の前を通りすぎていく。
(あーあ。もう少し見たかったなー)
(もうここには1人で来れないだろうし…)
がっかりした気持ちを抱えながら歩いていると、ヨンウォン皇子が突然止まって私の方を向いた。
横から覗き込むように私の顔を見る。
「先ほどの店が見たいのであろう。待っててやるから見てきてもいいぞ」
「いいえ、結構です」
私はチラッとヨンウォン皇子の顔を見ながら小さく首を振った。
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