想定外のキス

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機嫌が悪そうには見えないけど、ソユンさんと話す風でもなく、黙々と舟を漕いでいる。 そういえばあの桜の樹の下でも誰とも婚姻するつもりはないって言ってたよね。 なんでなんだろう。 ソンヨルさんにまた話しかけようとした時、突然ヨンウォン皇子が私たちの方を向いて叫んだ。 「ソンヨル、ミンジュン、ここからあの木がある向こう岸のところまで競争しよう。誰が一番早く漕げるか勝負だ!」 みんなが一斉にヨンウォン皇子の方に顔を向ける。 「手加減は無しだからな。真剣勝負だ」 ヨンウォン皇子はニヤリと美しい笑みを浮かべながら、悪戯っ子のような顔をしている。 「わかった」 「わかりました」 2人も同じようにニヤリと笑みを浮かべ、目配せをしながら楽しそうに答える。 そして3隻の舟が集まってきてスタートラインに並んだ。 「ソンヨルさん、私たちが絶対1位取りましょー」 私は両手をギュッと握って『ファイト!』とソンヨルさんにジェスチャーをする。 ソンヨルさんもそれに答えるように笑顔で大きく頷いてくれた。 「おい内官、号令を頼む」 ヨンウォン皇子が池の周りで見守っている内官のひとりに言った。 いつの間にか内官の前には大きな太鼓が用意されている。 「かしこまりした、皇子様。ではいきますよ。位置について、ヨーイ」 ゴォォォォォーン。 内官がたたいた太鼓が大きく鳴り響き、3隻の舟が一斉に動き出した。 ヨンウォン皇子、ミンジュンさん、ソンヨルさんが力いっぱいに舟を漕ぎ始める。 池の周りにいる内官や侍女たちも、声を出したり手をたたきながら、和気あいあいと楽しそうに見ている。 「ソンヨルさん、頑張ってー!」 「ミンジュン様ー、頑張ってー」 私やサラ皇女が大きな声で応援する中、ソユンさんだけは声を出すことはせず、胸の前でしっかりと両手を組み、祈るような姿でヨンウォン皇子を見つめていた。
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