恋が始まる瞬間

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「そうだ、実桜。これは見舞いの品だ」 そう言ってヨンウォン皇子が手に持っていた布包みを差し出し、私の両手にポンとのせた。 「私にですか? あ、ありがとうございます」 私は少し戸惑いながら皇子の顔を見てペコリと頭を下げた。 (見舞いの品?) (何を持ってきてくれたんだろう?) 「開けてもいいですか?」と皇子の顔を窺うように覗き込むと、皇子は無言のままコクリと頷いた。 何がでてくるのか少しわくわくしながら包の結び目を解くと、ふっくらと丸みを帯びた紅く色づいた桃が3つ顔を出した。 「わぁー、桃だー!」 私は嬉しくて声をあげ、ヨンウォン皇子の方を向く。 皇子の顔は柔らかな表情でうれしそうにニッコリと笑っている。 「すっごくいい匂い。おいしそうー」 桃の甘くていい匂いがふんわりと周りに漂ってくる。 冷やして食べたらおいしそうだ。 この国に来てからというもの、果物と言えばスイカやイチジク、干した柿や棗や杏みたいなものしか見たことなかったため、この時季に食べる桃や葡萄などはこの国には無いのだと思っていた。 久しぶりに見たみずみずしくておいしそうな桃に、私はテンションがあがり、満面の笑顔で桃の匂いを嗅いでいた。 そんな私にヨンウォン皇子が少し驚いた顔をして尋ねた。 「ところで実桜、そなたは桃を知っておるのか?」 「えっ? 桃ですよね? 知ってますけど…」 「そうなのか。珍しい果物ゆえ、国民にはほとんど知られていないのだが、実桜は桃を知っておるのだな」 「桃って珍しいんですか?」 「そうだ。貴重な果物であるがゆえに、なかなか手に入らないのだ」 「桃って貴重なんですか? だったら皇子様が食べてください」 私は左右に首を振りながら、持っていた桃をヨンウォン皇子の目の前に差し出した。 「いや、そういう意味ではなくて」 「そんな貴重な果物でしたら、私貰えません」 「だからそうではなくて、これは実桜に持ってきたのだ」 皇子とそんなやり取りをしていると、ボクシム先生が庭へと出てきた。
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