恋が始まる瞬間

5/24
前へ
/208ページ
次へ
「ところでボクシム先生、これから少し実桜をお借りしてもよろしいでしょうか?」 ヨンウォン皇子が唐突にボクシム先生に尋ねた。 「それは大丈夫ですが」 ボクシム先生が少しびっくりしたような顔をして答える。 「では夕方には屋敷に送り届けますので、少し実桜をお借り致します」 いきなりそんなことを言い出した皇子に、私は驚いて目をパチクリさせながら2人の顔を交互に見た。 そんな私を2人は全く気にすることなく、 「分かりました。では皇子様、お気をつけて」 ボクシム先生は和やかな笑みを浮かべながらそう言い、 ヨンウォン皇子も 「では先生、失礼致します」 と言って頭を下げた。 私はどうしたらよいのか分からず、2人の顔を見ながらきょろきょろとしていると、ボクシム先生がにっこりと微笑みながら「実桜、気をつけて行っておいで」と言って私が手に持っていた桃を受け取り、そのまま屋敷の中へと戻って行った。 (えええーっ?) ひとり残された私は、ゆっくりと皇子の方へと視線を向ける。 ヨンウォン皇子は少し微笑んだかと思うと、眉を寄せ、私を気遣うように口を開いた。 「これから少し外出するが身体はまだ痛むか?」 「少し痛みはありますけど大丈夫です。それより外出ってどこへですか?」 「ある場所だ」 「ある場所ってどこですか?」 「では馬に乗るぞ」 皇子は私の質問には答えてくれず、皇子の乗ってきた馬に乗るように促した。 「えっ、馬なんて乗ったことないから乗れない」 私はブンブンと首を横に振る。 するとヨンウォン皇子は颯爽と馬に飛び乗り、 「ここに左足を掛けれるか?」 と、馬の左側の鐙を指さした。
/208ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4075人が本棚に入れています
本棚に追加