恋が始まる瞬間

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「婚姻することが全てじゃないかもしれないけど、大好きな人と一緒にいることは心がすごく幸せだと思うから」 「心が幸せ?」 「はい。安心できるっていうか、満たされるっていうか、目に見えない幸せです。自分が辛い時や悲しい時に何も言わずただそばにいてくれて抱きしめてくれるだけで心が救われるっていうか…」 「そんなことは今まで一度も考えたことがなかったな」 ヨンウォン皇子はそう小さく呟くと少し悲しそうな顔をして遠くを見つめていた。 ***** 幼い頃に母を亡くしたヨンウォンは、女人に甘えるということには無縁で育ってきた。 確かに乳母や侍女たちはヨンウォンを可愛がってくれたが、それは母親の愛情とはまた違ったもので。 小さなころは、兄のスンヒョンや妹のサラが母親に抱きついて甘えているところを見ると、それがうらやましくて仕方なかった。 そんな気持ちを振りはらうかのように、ヨンウォンは誰よりも学問や武芸に励み、努力をした。 そのおかげで、ミンジュンやソンヨルという信頼できる友もでき、第二皇子として国の政務にも携わっている。 父の力となり、兄を助けることが国のためであり、自分の使命だと思って生きてきた。 それが自分の思い描く幸せだと思っていた。 そう思っていたのだが。 実桜に皇室のために犠牲になることはない、心が幸せなのかと問われ、答えられない自分がいる。 ヨンウォンの心がざわざわと揺さぶられていた。
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