女神と女嫌い

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女神と女嫌い

 「いや河童だろ」  良治が思わず突っ込む。すると河童は(さげず)んだ目をむけた。  「私の姿が気高く美しく見えないのは、あなたの心に問題があるからです」  「それより、あなたは今、死の淵にいます。本来ならそのまま黄泉の国へと旅立ってもらうのですが、あなたは窓から落ちる直前、自分を殺そうとした少女を助けようとしました。その善行に報いてチャンスをあげましょう」  「あなたは、これからの高校3年間であなたが大切にし慈しめる女性を見つけなさい。さすれば、天命をまっとうできましょう。(しか)らずば、死を賜ることでしょう」  良治はしばらく河童の顔を眺めていたが、「ちょっと確認させてくれ」というなり、河童の頭のうえの皿に手を向ける。  しっかりとした皿の感触が手のひらに伝わったと感じた瞬間、河童に平手打ちを食らわされた。勢い余って接触した河童の身体は柔らかくて気持ち良い。  再び薄れゆく意識の中で良治は思った。  「女神のいうことだったら、絶対(ぜってー)、嫌だが、河童のいうことなら、半分くらいは、まぁ、聞いてやっても良いかな。女じゃなくメスだもんな」 ◇ ◇ ◇  再び目が覚めると鼻水垂らして泣いている親友の稲田広志(いなだひろし)の顔があった。  どうやら学校の医務室らしい。  「良治、お前何やってたんだよ。あんなとこから後ろ向きに落ちるなんてあり得ないだろう。誰かに突き飛ばされたのか?」  少し間を置いてから返事がある。  「いや、階段で悪ふざけをしてたら、勢い余って落ちたんだ」  ズキズキと痛む頭に手をやると、あの河童の皿と同じ場所に大きなたんこぶがあった。  『水泳もやめよう、やっぱ、女神を名乗る河童は嫌だからな』  密かに誓う良治だった。
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