水が好きな女嫌い

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水が好きな女嫌い

 僕の名前は原田良治(はらだりょうじ)。福岡市南区にある、とある中学の三年生だ。  一応、水泳部に所属し、400メートル自由形のエース、大会でも何度か優勝している。 お陰様で、筋肉質で逆三角形の美しい体型をしているのだが、困ったことがひとつある。  モテるのだ。  だが、僕は女という生き物が心底嫌いだ。  物心ついた時には既に親父はいなかった。  母は死んだと言っているが、僕は逃げたと思っている。  母は三度の飯より(うわさ)好きでろくに家事をしない。そのくせ、僕が少しでも注意すると、逆ギレしてヒステリーをおこし、怒鳴りまくる。我慢ならないのは、他人のアラを探して、悪口ばかり言っていることだ。  人を悪く言うことで自分を少しでも良く見せようとする。  これでは死んでも性格は良くならないだろう。  姉は、ものぐさで風呂にも入らず、香水でいつもごまかしている。下着をその辺に脱ぎ散らかして、どこでも平気でたばこを吸う。  注意するとヒステリーを起こす。  間違いなく母の子だ。  ところが、会社では人気者というのだから、その猫かぶりには恐れ入る。  それは自宅にいても垣間見ることができる。他人が家に遊びに来ると、お土産に大げさに喜んだり、話にいちいち大きく頷いて褒めるのだが、その人が帰ると、お土産や話にケチをつけまくる。最低のくそ野郎、いや、くそピッチだ。  そして極めつけは小学5年のときの同級生川嶋愛聖(かわしまめぐみ)だ。  クラスでも人気だった愛聖に告白され、有頂天だった僕だが、その愛聖にサッカー部と野球部にも付き合っているヤツがいることを、クラスの女の子に教えられた。  もう名前も覚えていないその女の子に「だから愛聖と別れて私と付き合って」と言われたあと、吐いたことだけは覚えている。  まだ、ブラジャーもつけていない小学生でこうなのだ。女なんて信用してはならない。  僕の座右の銘はフランスの詩人ボードレールの言葉だ。  「結婚は人生の墓場である」  結局、僕はどこに怒りをぶつけてよいか分からず、ただ、ひたすら泳ぎまくった。無心になれる水の中が僕の唯一の居場所だった。  そう、あんな事件がおこるまでは。
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