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中途半端に伸ばされたわたしの手の上で小さく雫が弾ける。
いつのまにか体を包み込む重い空気。
彼の先に見える雲で覆われた空。
「雨……?」
そう呟いたわたしの声ごと引き寄せるように、彼が止まっていたわたしの手を掴む。
一瞬の躊躇いもなく、彼は雨音に急かされるようにわたしに背を向けて走り出した。
引き寄せられた上半身に引っ張られるように、わたしの足も動き出す。
次第に強まる雨に体は冷えていくのに、掴まれた手の先から伝わる熱によってわたしは寒さを感じなかった。
足元で跳ね上がる雨も、アスファルトから立ち上る香りも、ぼやける視界も、わたしの意識を逸らすことはもうできなかった。
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