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わたしはただ、その繋がれた手を見つめたまま走る。
彼がどこへ向かっているのかも、どこを目指しているのかも、何もわからない。
わからないけれど……不思議と不安はなかった。
わたしの冷たい手を包み込む、温かくて大きなこの手があれば、わたしはそれだけでいいのだから。
彼の足が止まる。
振り返った彼にぶつかるようにして、わたしの体も止まる。
雨は、私たちの体ではなく、頭上に張り出した屋根の上で音を鳴らす。
見上げた視線の先で、前髪を濡らしたままの彼が笑った。
その瞬間、わたしの心臓がまるで今動き始めたばかりかのように突然にその存在を主張し始めた。
体の中で響き渡る鼓動に押されるようにして、わたしは繋がれたままだったその手を初めて自分から握り返す。
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