03.無能の実験

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 そして誑かされた刑務官はロビンに「鍵の代わりとなる金属」を差し入れ、脱出した連続殺人犯に首を掻き切られた。  分かりきっていた未来――誰の目にも明らかな死という現実が待っているのに、彼は躊躇わずロビンを逃がした。  血に塗れた刑務官の顔は、どこか安堵した色を浮かべていて……ひどく穏やかに見える。その理由を知ろうと躍起になるFBIをよそに、コウキは嫌悪感を抱いた。  同時に、羨ましく思えて――そんな自分に驚いたのだ。 「あの男は簡単過ぎてつまらなかったが……次の獲物はもう少し楽しめそうだ」  物騒な殺人予告をした男の青紫の瞳が、僅かに外へ向けられる。揺れる樹木の葉を見た後、ロビンはゆっくり溜め息を吐いた。 「……また雨が降る」  湿った空気を厭う響きの呟きが零れ、ロビンが前髪を掻き上げた。ふわりと香ったのは柑橘類の甘酸っぱさと、車の中に充満していた血の臭い。 「ケガを診せろ」  これだけの血臭がするのだ、大量に出血するケガだろうと判断したコウキが立ち上がる。救急道具を取りに棚へ向かう背を見送り、ロビンは一度見開いた目を伏せた。
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