01.約束の雨

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01.約束の雨

 1週間も篭っていた研究室から出れば、空は灰色だった。  ここ数日の天気すら記憶にないコウキは、ぽつりと頬に落ちた空の涙に目を細める。 「……雨か」  傘は用意していない。だが、車を止めた駐車場は大して遠くなかった。  右腕に抱えたファイルをちらりと確認し、コウキは大切な資料を濡らさない為に走り出す。  土砂降りになる直前に鍵を開けて飛び込んだ車内で、前髪を伝う雫を無視して資料を確認した。大して濡れていないことに安心しながら、僅かに表情を和らげる。  セダンの後部座席に用意しているタオルへ手を伸ばそうと顔を上げ……動きを止めた。  ルームミラーに映る、見慣れた人影―――。 「……久しぶりだ、『稀有なる羊』」  その呼び方をする男は、コウキが知る限り世界で1人だけだった。長い三つ編みを指先でくるくる回しながら、楽しそうに笑う姿は変わらない。 「ロビン……っ!」  息を呑んだコウキの反応に満足したのか、彼は喉の奥を震わせて笑った。 「3ヶ月も待たせたが、『野に放たれた獣であっても、約束は守られなければならない』んだぜ?」     
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