02.破滅への一歩

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02.破滅への一歩

 車内に響くのはロードノイズとエンジン音、そして車体を叩く雨音だけ。心地よい沈黙を楽しむように、ロビンはリヤシートに身を沈めて目を伏せた。  右足を上に組んだ膝に、祈りの形に組まれた両手が乗せられている。何度か鉄格子越しに見た姿勢をバックミラーで確認し、無言のコウキはステアを左に切った。  自宅は右折した方角にある。  横Gから左折したことに気づいている筈のロビンは、しかし目を開こうとしない。目前に見えた古びた建物は、地元の警察署だった。  少し速度を落とした車は、停車しているパトカーを避けて再びスピードを上げる。警察署の前を素通りしたコウキの心境は複雑だった。  本当なら、一市民としての義務を考えるなら……ロビンを警察に突き出すのが正しい。FBIに連絡するだけでもいい。なのに、どちらも選ばない自分がいた。  目を閉じているロビンが何を考えているのか、もしかしたら眠っているのかも知れない。そんな彼の行動に興味が沸いてくるのを、どうしても抑えられなかった。  以前より近い距離で、もっと近くで観察してみたい。  研究熱心な心の片隅で、冷静な自分が打算的に囁いた。     
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