【1】ファーストコール

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「タニケットオンして」  バイオクリーンルームに惣太の声が響く。大学病院の中にはハイブリッド手術室や鏡視下手術室などといった特別なオペ室があるが、その中の一つがこの部屋だ。脳や骨が露出する手術ではオペ室内の清潔度が要求されるため、特別な空調設備で中を完全な無菌状態にする換気システムが必要なのだ。そのため脳神経外科や整形外科のオペではこの部屋が使われることが多い。 「損傷した筋肉に引っ張られて、どちらの骨も相当転移してるな。整復する」  ラテックスを嵌めた両手で脛骨をつかむ。整復に時間を掛けてはいけない。患者の体の負担にならないよう、一瞬で直さなければならない。コンマ何秒ほどの力を掛けて瞬時に転移を戻す。 「やっぱ上手ぇなあ。手品見てるみたいだ」  前立ちの林田が声を上げた。 「先生がやると力入れてないように見えますね」  器械出しの看護師も感心した様子で見ている。 「整形外科の先生って林田先生みたいに体格ゴリラな人が多いですけど、高良先生は細身で小柄ですよね。見た目だけだと内科医か小児科医に見えます」 「ゴリラって酷いっすよ、水名さん」  林田はベテラン看護師である水名に文句を言った。その間も惣太の手は止まることなく動いている。オペ室でスタッフが雑談をしているのはオペがスムーズに進んでいる証拠だ。オペの間中、緊迫させた雰囲気を漂わせるのは下手な外科医のすることだ。大事なのは緩急をつけたオペをすることだと惣太は常々思っていた。 「力技で整復しようとする奴はただの藪医者だからな。はい、これで腓骨も整復終了。次、髄内釘、ネイル挿入。固定するからスクリュー頂戴」 「はい」
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