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私はにくしみを噛みながら、ふーふーと鼻を鳴らし、キズナに送る次のメッセージをうちはじめた。キズナに助けを求めるための、モールス信号的な何かを思いつきたくて、頭を働かせる。そのとき、キズナから追加の返事がとどいた。
『不安で、腕切っちゃった』
末恐ろしいメッセージと同時に、悪魔の処刑を行ったかのような画像が送られてきた。
皮膚と皮膚のふれあいを切り裂く厚い横線に対し、十字を切るような縦線。真紅の水たまりの底に、桃色の脂肪が見えていた。
「私のせいだ……私が、ちゃんとキズナを見てないから」
私は頭がずきずきと痛んだ。洋式トイレの便座を背景にしたキズナの肉の断面をみていると、なぜだか異様にのどが乾く。
「ミズキのせいじゃない。ミズキのせいじゃないから」
洋平は私の手から携帯を取り上げ、私の背中を押すと、自分の胸の中で私の顔を包み込んだ。洋平の鎖骨が、鼻の骨にあたって痛い。でも、知ってるにおいに少しずつ、頭痛の雲が晴れていく。私は彼女の異常性を目の当たりにして、すこし理性がはたらきはじめた。そのまま彼の背中に腕をまわしてみる。私は安心の温度をもとめ、彼の胸に頬を寄せた。しかし、私は洋平の体温をマイナスゼロ度に感じてしまった。だから、絶望の白刃がすぐそこまで来ていると思った。真空をみつめるような喪失感にさいなまれた。私は自分を許せなかった。知っている身体を、私はどうして忘れてしまったのか。磔にふさわしいほどの罪を覚えた。キズナに会いたい。
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