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洋平とは、すっかり以前のような付き合い方に戻り、私は日々の行いに違和感を抱かないことに満足していた。
「ミズキ、向井キズナから離れられたんだな。良かったよ、ほんとうに」
そう言って、洋平は満足げに携帯ゲームをはじめた。授業の始まりの合図。三十分経つと、キズナが教室にはいってくる。寝坊をしたのか、髪の毛は朝のシャワーを残したまま、襟足の毛先が少し濡れて固まっている。
「だらしないよな、あいつ」
洋平は知った顔でキズナをけなすので、私は腹が立った。彼のノートの隅、私が書き加えたはずの小テストの予定を、黒いペンでこっそり塗りつぶした。それから、鞄からこそこそと携帯を取り出して、キズナにラインを送った。
『今日、うちに来るよね?』
彼女からの返事はあっという間に届く。
『うん。待ってるよ』
私はオーケーのスタンプを押すと、洋平に見られても平気なように、キズナとの会話の履歴をこまめに消去した。
「私今日、バイトだから」
「あぁ、俺も」
授業が終わると、私たちは勤めを終えたかのようにスッキリした気分で席を立った。洋平は忙しそうに教室を出て行く。私は洋平のことをすぐに忘れた。太陽は、オレンジ色と紺色をからませながら、ゆっくりと沈んでいった。
明日は向井キズナの誕生日。私はバイト先で狙いを定めておいたブルーキュラソーとショートケーキを購入し、家路を歩いていた。
普段、私は閉店時間までレジを打つのだが、今日は予定があるといって早めに上がらせてもらった。キズナが駅まで来るのに、あまり時間が遅いと夜道を怖がるのだ。
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