151人が本棚に入れています
本棚に追加
/102ページ
ミツキさんは、俺に向き直ると、神妙な顔をして、ぴし、と人差し指を俺の方に向けた。あの夜の事だ。俺も倣って神妙な顔をして、ミツキさんに向き直る。ミツキさんの指は、暫くふらふらと揺れていた。俺は困ってしまい、何となくその指の行方を追った。
「付き合うに当たって、約束して欲しい事が、あるんだ」
ふらふら揺れていた指が止まって、今度は、二本、指が立てられる。ミツキさんの意外に大きな手の指は長くて、でも、爪は桜色でつやつやとしていた。
「は、はい」
見惚れてしまって、返事が遅れた俺をどう取ったのか、じ、と俺を見たミツキさんは、覗き込むように、俺の一重目蓋の少し三白眼気味の目を見据えて来る。そして、やおら口を開いた。
「先ず、浮気は絶対しない事」
「え、は、はい……」
思わぬ事を言われて、俺の返事はまたも曖昧になり遅れた。だって、ミツキさんが、そんな事を言うなんて。本当に意外だった。続けざま、ぽん、と自分の胸を叩いて、ミツキさんは、ふんわり、と微笑った。ああ、可憐だな。
「もちろん、僕も浮気はしない。お互いイーブンで行かないとね」
「……は、はい」
俺の返事が遅れたのは、ミツキさんに見惚れていたからじゃない。勿論、それもあるけど。それ以上に、あのミツキさんが、そんな事を言うなんて、と思ったからだ。ミツキさんは、本当に可愛い。当然、モテる。だから、バーでも良く声を掛けられているのを見掛けていたし、その中の何人かと、実際、街に消えて行ったのも知っている。それなのに、浮気はしない、なんて、いまいち信じ難かった。俺のような男が浮気をしないのは、当然の事だったが。
最初のコメントを投稿しよう!