第二章 電話とデートとキスと。

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 ミツキさんから電話があった時、俺は、途轍も無く、挙動不審だったと思う。意味も無く部屋の中をうろうろしてしまうくらいには。つくづく、一人暮らしで良かった、と思う。でも、実は、電話は、初めてでは無かった。メールに始まり、SNSでのメッセージ、そして、電話。びっくりする事に、ミツキさんは、あの日から、本当にまめまめしく連絡をくれていたのだ。比べてはいけない、と思いつつ、今まで付き合って来た子達とは、全く違う事に、正直な所、まだ、嬉しさより戸惑いの方が強かった。 「ナオも連休なんだ? じゃあ、明日は、デートしようか?」  自分からミツキさんに電話を掛けるなんて事は到底考えられない事だったが、ミツキさんの方から、こんなに気楽に電話がある事も、本当に考えられない事だった。だからこそ、大慌てだったって言うのに。漸く落ち着いた所でそんな事を言われて、また、混乱してしまう。俺は、意味も無く立ち上がって、そして、また座った。 「デート、ですか?」  俺が繰り返すと、ミツキさんは電話の向こうで苦笑したみたいだった。 「予定が入っていた?」 「ま、まさか!! 超、暇です!!」  探るような声音に、俺が慌てて早口で言うと、ミツキさんは今度は朗らかに笑い声を届けてくれた。本当に、鈴を転がすよう、と言うのはこう言う声を言うんだろう、と俺がぼーっと考えていると、ミツキさんは俺の最寄駅を聞いて来た。 「確か、一番近い駅が、K駅だっけ?」 「あ、はい、そうです!」  正確に言うと、都電の駅の方が近かったが、仕事に通う時も遊びに行く時も利用するのはK駅だった。K駅までは自転車だ。 「じゃあ、K駅の西口駐輪場は、分かる?」  正に、思い浮かべていた所を言われ、即座に答える。 「はい、分かります!」 「その前で、待ち合わせようか?」  そう言われて、俺は自分の耳を疑い、ついでに自分のスマートフォンすらも疑って、まじまじと見てしまった。待ち合わせてデート? クローズドの俺からすると、いや、今まで付き合って来た子達の事を考えると、本当に有り得ない事だった。今まで付き合って来た子達とは、デート、と言えば、せいぜいが食事くらいで、後は言わずもがな、だった。なのに、ミツキさんは、普通に、健全にデートをしよう、と言って来たのだ。多分、俺の認識が間違っていなければ。
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