第一章 劇的な別れと思わぬ始まり

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 あ、今日も一人だ。  俺はそう気付いて足を止めた。つやつやの唇を尖らせて、彼は、つまらなそうにカクテルグラスを弄んでいた。本当に、そう言う姿すら絵になる人だな、と改めて思う。 「おい、ナオ、ぼさっとしてるなよ。早く入れって」  荒っぽい声を掛けられて、俺は、はっとして後ろを振り返り、謝りながら道を譲った。ふん、と鼻息荒く、どすどすと音を立ててユウトが先に行く。それを追って、俺も店内に入る。相変わらず、だな、と思う。カウンター席の一番奥に陣取り、ユウトは短くバーテンダーに自分の飲む分だけ注文をしていた。これも、相変わらずだ。まあ、仕方が無い。  ユウトとは、半年前にデートクラブで知り合った仲だ。デートクラブ、と言ってもそう言う名の出会い系サイトだったが。出会うに当たって、俺が条件として挙げたのは可愛い系の子、ネコの子、と言う物で、それにぴったり当てはまったのがユウトだった。ユウトは、確かに可愛い。そして、ちゃんと、ネコだった。この半年で、それは、しっかりと理解出来ていた。  俺はユウトの隣に腰を下ろすと、バーテンダーにギネスを頼んだ。 「またビールかよ」  ユウトはウィスキーのロックを手に、俺を嘲笑うような声を出す。これも、ここ最近では、いつもの事だった。酒に弱い俺を、完全に下に見ている態度だった。 「ギネス、美味しいよ。ユウトも飲んでみれば?」  俺がそう声を掛けると、ユウトは鼻で笑ってバーテンダーにツマミを注文し始めた。無視されて、俺は、小さく右手を握る。何とか、ようやく、決心が固まった。ずっと、もう一ヶ月前から、今日こそは言わねば、と思っていたのだ。それが、今日だ、と思った。
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