152人が本棚に入れています
本棚に追加
「……ユウト、話があるんだ」
「何?」
ツマミのナッツを食べながら、ユウトが俺を振り仰ぐ。ああ、やっぱり、可愛い。悔しいぐらいに。ちょっと釣り上がり気味だけどぱっちりとした二重の目が、小さな顔の中で目立つ。小さめの口も、その愛くるしさを損なう事は無かった。高い鼻は小振りで尖っていて、頬なんてピンク色だった。本当に、理想的な可愛さだな、と思った。どうしようもなく、悔しいくらいに。
「言おう言おうと思っていたんだけど……」
「だから、何?」
俺が言い淀んでいると、ユウトは面倒臭そうに被せ気味に聞いて来る。ユウトは、せっかちなのだ。のんびり屋の俺とは違って。ごくり、と唾を飲むと、俺はそろそろと口を開いた。
「……もう、終わりにしよう」
ユウトは俺をまじまじと見つめる。
「………………は?」
思わず漏れた、と言うような口振りだった。しばらくして、ぷるぷる、とグラスを握る手が震えているのが見えて、俺は、逆により一層冷静になれた。
「どう言う、事?」
「終わりに、したいんだ」
聞かれて、俺が珍しくきっぱりとそう言うと、ユウトはやおらカウンター席から立ち上がった。ばしゃ、と音がする。避ける暇も無かった。あっと言う間の出来事過ぎて。辛うじて目をつぶれたのは、不幸中の幸いか。
「なら、こっちから別れてやるよ! この早漏野郎が!」
そう言うと、荒々しくグラスをカウンターに叩き付け、ユウトは靴音も高らかに店を出て行った。ばん、と言う激しい音がして、いつもはそれなりに騒がしい店内が、しーん、と静まり返ってるのが分かった。ああ、注目を浴びている。そんな事、俺は微塵も望んでいないのに。俺は、どうして良いか分からずにカウンター席から動けずに居た。どうしよう、どうしよう、と内心焦りが募るが、俺には何をどうするかも浮かばず、何も出来ず、本当に、どうしようも無かった。
最初のコメントを投稿しよう!