第一章 劇的な別れと思わぬ始まり

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「はい、自分でも拭く!」  手に新しいおしぼりを握らされる。その手が、意外に大きい事に、俺は驚いた。と言っても、俺よりは小さいけれども。  俺が適当に服のアルコールを拭き取ると、彼は漸く満足げに頷いて、それから、ちょっと歯を見せて笑った。その笑顔に、きゅう、と胸が締め付けられる。本当に、何て可愛い人なんだろう、この人は。 「うん、まあ、良いかな」  もう一度頷いた後、床を片付け終えた黒服に慰労の言葉を掛ける彼を、目で追ってしまう。まるで、先程の喧騒なんて無かったかのように。ああ、やっぱり、彼は本当に理想的な人だ。俺は、役目を終えたおしぼりを握ったまま、彼の動きを見つめ続ける事しか、出来なかった。
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