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ふう、と息が漏れる。ユウトの事を悪くは言えない。俺も、酷い男だ、と思ったから。だって、上手くは出来なかったけれど、漸くユウトと別れる事が出来て、俺は、本当に安堵していたから。もう、いや、本当は最初から、気持ちは、全然、ユウトに無かった。そう、本当は、気持ちは……。
「……じゃあ、さ、僕と付き合ってみる?」
瓢箪から駒、と言う諺が先ず頭に浮かんだ。ぽん、とまるで漫画みたいに。それから、言われた事が現実だと思えなくて、俺は思わず自分の都合の良い耳を引っ張ってしまった。あ、すごく痛い。それを見てミツキさんは、くすり、と綺麗に笑う。
「僕も、今、フリーだからね。丁度良いんじゃない?」
聞き間違いじゃ無かった!! 嘘だろう!? あの、ミツキさんが!? ほとんど誰の誘いにも乗らない、あの、ミツキさんが!?
「えっ、えっ、でも、あの……」
「付き合うの? 付き合わないの?」
もう一度問われて、俺は身を乗り出して、きっぱりと言った。俺にしては、珍しい事に。
「付き合いたいです!」
「なら、決まりだね。ふふ、今日から、よろしく」
ミツキさんは小さく口元を緩ませると、軽く首を傾げた。その、可憐さと言ったら!
「は、はい! よろしくお願いします! っ、てて……」
「あはは。大丈夫? あーあ、赤くなっている」
勢いよく頭を下げたせいで、ごん、とカウンターに額をぶつけたが、痛みはミツキさんの軽快な笑い声のせいで、ほとんど感じなかった。ミツキさんは、こんな風にも笑うんだな、と知られて、嬉しかったから。俺は、その時、完全に、夢心地だった。
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