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 僕の実家は、かなりの有名所の老舗の和菓子屋だ。デパート等でも高級和菓子として扱われている。その為、両親共働きで、それなりに裕福だったから、僕は、正直、母の味、と言う物を知らない。料理は、お手伝いさんが作ってくれていた。それを、大概、一人で食べる。そんな生活を送っていた。それなりに高い食材で、それなりに腕の立つお手伝いさんだったから、確かに、美味しかった、のかもしれない。だけれど、僕は、実家で食べる食事を、美味しい、と思った事は無かった。  だから、ナオの手料理を初めて食べた時は、感動に打ち震えた。これこそ、おふくろの味だ、と思った。確かに、美味しかった。それ以上に、温かかった。  ナオ自身は、父子家庭に育ったらしい。小さい頃から、年の離れた姉と一緒に料理をする事が多かったらしく、今でも、基本的には自炊らしい。その方が安く上がるのだそうだ。ちなみに、家事全般を仕込まれたらしく、定期的に家事代行サービスを入れている我が家とは違って、きちんと掃除も洗濯も全て自分でしているとの事だ。凄過ぎる。 「ナオ~、一緒に住もう? 僕の部屋、好きだろう?」  ナオの顔を下から覗き込んで、瞳をうるうるさせながら訴えてみる。一瞬、仰け反ったナオは、頷き掛けて、慌てて首を横に振った。 「そ、そりゃあ、ミツキさんの部屋は、夢の部屋ですし、大好きですけど……一緒に住むのは……」 「何で?」  単純に、疑問が湧いた。ナオは、もう、何度も僕の部屋に足を踏み入れているのに、未だに目を輝かせて写真を撮るくらい、僕の部屋が好きだと言うのに。 「お、男同士で一緒に住んでいたら、怪しまれますし……」 「ルームシェアする奴等なんて、今時、ざらだよ?」 「で、でも、その……」 「ナオの勤める区役所、ウチの方が近いじゃない?」  ずばり、一番ネックになりそうな所も突いてみると、目に見えてナオは困ったように目を彷徨わせた。 「それは、そう、ですけど……」  全く煮え切らない答えに、苛々が募る。僕は、短気なのだ。
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