第一章 劇的な別れと思わぬ始まり

9/12

151人が本棚に入れています
本棚に追加
/102ページ
 だから、初めてミツキさんを見掛けた時には、衝撃だった。俺の理想が服を着て、いや、正に俺の理想通りの人がこの世の中にはいるのだ、と思ったのだ。ふんわりしたウェーブが掛かった襟足が長めの髪は亜麻色で。すっきり整えられた眉の下の、大きなアーモンド形の二重の目は色素が薄くて光を受けるときらきらと輝く。鼻筋の通ったすっきりとした鼻は、先が尖っているのに小振りで。そこを彩るようにふっくらとした頬は薔薇色をしている。全体を色っぽく見せるのは、大きいのに嫌味じゃない艶やかな唇で。それらが、完璧に配置された、本当に、可憐で、可愛くて、素敵な人だった。ミツキさんの凄い所は、それだけじゃない。振る舞いも、だ。仕草がどきりとする程、可憐だ。ちょっとした顔だって、可愛くて。それに、服装も靴も鞄すら、いつもお洒落だ。  俺は、手を伸ばして、棚に置かれた部屋には不釣り合いのパステルカラーの置物を手に取る。姉に貰った可愛いお姫様のオルゴールだった。何度か足元のゼンマイを巻くと、お姫様がくるくると回りながら可愛らしい音色を奏でる。10歳年の離れた姉だけは、俺の本当の願望にも俺の性的指向にも、驚きはしたが、決して引かずに理解してくれた。俺が、唯一、腹を割って話せる相手だ。だけれど、それ以外に、俺に理解者は居ない。今まで付き合って来た、どの子にも、俺は自分の本当の姿を見せられはしなかった。だから、だからこそ。 「幻滅、される、かも……」  ミツキさんには、絶対、バレたくなかった。こんな俺は。嫌われたくない。幻滅だって、されたくない。オルゴールを抱き締めて、ミツキさんの姿を思い出す。可憐で、可愛くて、でも、ちょっぴり妖艶な微笑みは、俺の心の真ん中にあった。だって、三年も憧れた人だ。俺の、本当に、本当の、理想の人だ。 「別れたく、無い、なあ……」  付き合い始めたのも奇跡みたいだって言うのに、俺はそう呟く。そうだ。別れたくなんてなかった。ミツキさんだけは、憧れ続けたあの人だけは、可能なら、ずっと、傍で見ていたかった。
/102ページ

最初のコメントを投稿しよう!

151人が本棚に入れています
本棚に追加