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あとで内緒で洗うの面倒臭えー、なんてどうでもいいようなことが延々、脳裏を巡る。いっそお袋に内緒で次のゴミの日にでも捨てちまおう、ああそうだ、それがいい。
「なあ、今日、挿れていーっつったよな……?」
「ん……? あ、言った……っけ?」
バーカ、ンなこと、いちいち口に出して確認すんなっつの!
こいつって、外見だけはめちゃくちゃ男前で、見るからにクールなくせして、意外と繊細っつか――晩熟だったりする。よくよく考えてみると、今までにも一度だって俺が本気で嫌がるようなことは言ったこともねえし、したことも――無い。ちょっとしたすれ違いはおろか、不機嫌になることもなきゃ、喧嘩という雰囲気にすらなった試しがない。
出来過ぎなんだよ。心地好すぎるんだよ。たまにはもっとこう……どんなことでもいいから激しく絡み合ってみたい。魂と魂をぶつけ合うように、己を剥き出しにして鬩ぎ合いてえ――なんて思うのは欲張りな考えなんだろうか。例えばそれが喧嘩でもいい、詰り合いでもいい。もっと言えば、乱暴と思えるくらいめちゃくちゃに乱されてみてえんだよって、心のままに云ってしまえたら最高だろうにな――。
でもいい。
興奮気味に吐息を乱して、頬まで赤らめて、もうクールのかけらもないコイツのツラを見られただけで満足だ。俺の天邪鬼な悩みすら、一気に全てが叶ったように吹き飛んでく。
ふと、視界をよぎったテレビ画面に、かぼちゃのくり抜き行燈が映ってた。
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