2 死体愛でる少女

2/7
前へ
/36ページ
次へ
 柚月はその社交性の乏しさを除くと、優秀な方の人間であると思う。学業成績は通っている進学校の中でもトップクラスである。幼い頃、剣道場に通っていたそうで、運動神経もよい。まあ、活発に動き回る小動物の首を掻き切るだけの瞬発力があるのだから鈍いはずはないのだが。容姿も悪くはない。格別美人ではないけれど、顔立ちは涼やかで整っている。もうちょっと制服の着こなしとかメイクとかに気を配れば十分可愛らしい少女だろう。唯一の欠点たる社交性のなさは別に本人が気に病んでいるわけでもない。というか全く気にしていない。  祟り神は空を仰いだ。さあ、どうやってこの女をこらしめようか。  年頃の少女であれば、愛しい相手に讒言の呪詛を送るという手が一番効果的だ。が、この女にそんな相手がいるはずがない。それは、彼女に憑りついてから十日間の観察で確信した。そんな甘い感情を持っている女が夜中に猫を虐殺しないし、その死体のコレクションなどしない。男女間の愛だけでなく、家族や親友であってもこの方法は効果的なのだが、この女は家族にも関心がないし、友人はそもそもいない。あとはもう、恥ずかしいポエムとか小説みたいな中二病的なものを学校の廊下に名前入りで公開してやるくらいしかない気がしてきた。家探ししてやろうとも思ったが、柚月の家には専業主婦の母親がだいたい常駐しているし、全員外出した時は当然ながら鍵がかかっている。ちなみに、祟り神とはいえ、現実世界にいる時は生身の肉体を持たざるを得ない。それは柚月という憑りつき相手がいてもである。幽体で行動できるのは置き石の半径一メートル内くらいの範囲に留まる。ちなみに祟り神はピッキングスキルなど持っていない。それに、廊下にポエム貼り出しというのも祟り神の所業としていかがなものだろうか。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加