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朝七時半。柚月の登校時間だ。置き石の中で幽体となっていた祟り神は現実世界に戻った。ちなみに、夜は置き石の中に戻ることにしている。理由は、家がないからといういささか情けないものであるのだが。浅黒いチャラ男の姿で、木陰から自宅兼社務所を見つめる。予想通り、柚月の姿が見えた。こっそりその後をつける。
家から学校まではだいたい四十分ほどで到着する。朝練などのない帰宅部の学生としてはやや早い登校なのだが、これが柚月の毎日の習慣のようである。重たげな学生鞄を持ちながら駅へ向かう。自動改札でスムーズに改札を通過する柚月とは異なり、祟り神は小銭を握りしめて切符を買う。小銭は実は神社の賽銭箱から盗んだものである。祟り神はあくまでおまけで、あの神社の主神は別にいるのだから純粋な窃盗に違いない。ホームで慌てて柚月の姿を探すと、ベンチで悠然と本を読んでいた。
柚月の通う学校には既に行ったことがある。そこまで必死こいて付き纏う必要はないのだが、何となくこの女から目が離せない。正直、もう懲らしめるのも諦めたい。また置き石の中で眠り続けたい。にも関わらず、柚月から目が離せない。ちなみに、愛情とか恋愛感情を彼女に持っているからではない。それは自信を持って言いきれる。この世界の誰がこの女を好きになるのだ。そもそも、祟り神とサイコパスの恋愛など不毛すぎる。
「中村さん?」
読書中の柚月に声をかける人物がいた。遠目に見ていた祟り神は、正直驚いた。この無愛想女に話しかける奴がいるとは。
「遠藤さん・・・?」
柚月が顔をあげる。心なしか驚いているように見えた。祟り神は意外に思った。こういう時、柚月はだいたい顔すら相手に向けずにぶっきらぼうな返事をする。家の中や学校での様子は祟り神は監視できなかったが、通学路で会う近所の人や店の売り子などへの反応はこの十日間ずっと見てきた。
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