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少女は歩きながら、一言たりとも言葉を発しない。男もまた少女のそういう性質を理解しているのか、無言で後を追う。
この繁華街は少女が住む県では屈指の賑わいを見せるエリアである。若者向けの店が多く、安価で流行に乗った洋服やアクセサリーなどを販売する店が多い。学校帰りの中高生が多い時間帯のため、制服姿の若者を多く見かける。店の売り子たちは声を枯らしてタイムセールや新着商品を道行く人に宣伝する。その声につられて店内に入る人間もいるが、少女はそれにも一瞥すらしない。ただ黙々と歩き続ける。それがとうとう耐えられなくなったのか、男が口を開く。
「柚月、どこに行くのかくらい教えてよ。」
少女は振り向きもせずに答える。
「ついて来てなんて言っていないけど?」
「冷たいなあ、一応君は僕の宿主なんだけれど?」
少女は男の方に顔を向ける。やっと言葉を交わすことができたことに安堵したのか、男はほっと息を吐く。しかし、その後、柚月と呼ばれた少女の顔を見て凍り付いた。
少女は凍てつくような目をして男を見つめていた。
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