8人が本棚に入れています
本棚に追加
/36ページ
「他人があの子の死を望んだら、死ぬのかなって。」
祟り神は茫然とした。
「皆がいるから何もやることがなくても面白くない文化祭に残り続ける。私が言うから美味しくないブラックコーヒーも飲む。皆が集団に加わっているから自分も参加したい。あの子が言っていることって、全部他人あってのことだったから。だったら、他人が死ねって言ったら死ぬことを選ぶのかなって。というか、私、嫌いな人間を手当たり次第殺してまわるようなことはしないよ。やってみたいけれど、多すぎて面倒だし。嫌いな人間は攻撃されたらやり返すけれど、そうでなければ放っておくのが私の主義。」
「そりゃ、お前が特別なんだろう・・・。だいたいの人間は、つるまなければ何もできないし、何も考えられないし、判断できないんだよ・・・。」
祟り神は自らの元となる怨霊たちの生前の記憶を持っている。ひとりひとりでは、病人を集落から放り出すことなどできないだろう。しかし、集団になってしまえば『みんなのため』という大義名分を掲げることができる。『みんなのため』という御旗の下であれば、少数派の弱者など切り捨てられる。それは保身やエゴなどではなく、自分以外の誰かのためなのだから。感染の脅威から集落をたたき出され、病よりも寒さや飢えで死んでいった者たちの苦しみの記憶。それがあるからこそ、祟り神には人間の持つ他人と合わせようとする気持ちがよくわかる。少しでも規範から外れてしまえば、死すらありえるのだ。
最初のコメントを投稿しよう!