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中村柚月というのが少女の名前である。学年は高校一年生である。この繁華街からは電車で二十分ほど先の駅にある町に住んでいる。
柚月の家は神社である。父が神主を務めている。代々神主を務めている家柄のおかげで、中村家は町の中ではそれなりの名士として扱われている。柚月の上には兄が一人おり、父の後を継ぎいずれは神主となる予定である。神社は小高い丘の上にあり、石段を登った先に鳥居があり、本殿と自宅兼社務所がある。そして本殿から少し離れたところに、注連縄にくくられた人間の頭ほどの大きさの石が置かれている。それは、この町でかつて流行った疫病により亡くなった人々の魂を鎮めるためのものだと言われている。感染力の強い病であったことから、当時の人々は罹患した者を町から隔離した。看病する者もつけてもらえず町から追いやられた挙句死んでしまった者の無念を慮ってのものだと伝えられている。いわば、祟り神を鎮めるための置き石なのだろう。
ある朝、柚月は父に神社の境内の掃除を命ぜられた。鳥居から本殿までの通り道を箒で掃いた後、件の注連縄の石のところを掃除していた。途端、柚月は置き石を蹴り飛ばした。そして置き石のあったところを箒で掃き、綺麗になったところでまた石をもとの位置に置いたのである。
掃除は終えたと箒を抱えて自宅兼社務所に向かう柚月に、おい待てという声がどこからか聞こえてきた。
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