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柚月の背後に、男が立っていた。
朝の静寂の神社に似つかわしくない茶髪の青年である。低い、怒りに満ちた声で男は柚月を問い質す。
「お前、この神社の者だろう?この石の由来は知っているはずだ。疫病に苦しみ、親しい者から隔離された挙句死んでしまった者の嘆きが理解できないというのか?」
「理解できない。」
男はずっこけそうになった。コントじゃあるまいし。
「その死んだ人って、石なの?」
「え?」
「あなたは石を尊重しろという。でも、これってただの石でしょう?死んだ人そのものじゃない。死んだ後に尊重されたって本人には何も伝わらないし。可哀想だと思うのなら、生きている間に何とかしてあげればよかったんじゃないの?」
いや、まあ仰る通りですが。男はいきなりもごもご言い出す。
「しかし、蹴ることもなかろう!」
「だって、掃除の邪魔じゃない。私は父さんから境内を隅々まで綺麗にしろって言われたの。」
「手でどかせばいいだろう。こう、なんか丁重な感じを出しながら。」
「さっきも言ったじゃない。ただの石だって、これ。それに重いし。蹴ったほうが楽。」
「いや、これ、ただの石じゃないんだ!」
思い出したように男は叫ぶ。なんせ、俺が憑りついているのだからな!
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