1 付き纏う祟り神

7/8
前へ
/36ページ
次へ
 柚月が境内の置き石を蹴飛ばした日、祟り神は彼女に憑りついた。怨念の集積たる石を蹴飛ばして無罪放免というわけにはいかない。こいつに不幸をもたらしてやると息巻き、己のできる限りの不幸を柚月にもたらそうとした。  疫病の死者の怨念から生み出された祟り神は、『悪いものを流行らせる』という能力があった。  ぱっと聞くと大したことがないように聞こえるが、これは今でも昔でも結構な脅威である。『悪いもの』の中には病もあるが、いわゆる悪口や讒言というものも含まれる。これだけでは死に至ることはないが、昔のような狭い共同体の中で生きる者にとっては結構な脅威である。豊かでなかった時代、人々は農業や漁業を営む上で協力しあわなければ生きていけず、そこで悪い噂を立てられて孤立してしまうことは生活を脅かすほどのことであったろう。現代でも、職場や学校で孤立してしまうことは脅威のはずである。孤独の中では人は耐えられないはずだ。  祟り神は柚月に讒言の呪詛を送ろうとした。讒言の呪詛とは、呪詛の相手に関わる人物に柚月に対して悪感情を抱かせ、あることないこと悪口を離させるというものである。が、やらなかった。  柚月と関わりを持つ人間がほとんどいなかったのである。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加