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2 死体愛でる少女
黒いパーカーにジーンズを履いた黒髪の少女は夜闇をじっと見据える。その目線の先は暗闇だが、猫の声が聞こえてくることから察するに、公園か何かがあってそこで猫の集会が行われているのだろう。にゃーにゃーと鳴く声は可愛らしく、動物好きであれば口元を緩めるかもしれない。が、少女は無言のまま一点を見つめているだけであり、そこに楽しそうな雰囲気は一切ない。隣にいる細身の男は、何故だか冷や汗をかいている。
「や、やめなって・・・。」
男がか細い声で少女に言う。少女はそれを意にも留めない。集会が終わったのか、猫たちは気ままに立ち去る。最後に一匹太った猫があくびをしている。その猫の首元を、少女はパーカーのポケットに入っていたナイフで切り裂いた。
暗闇の中で赤い血が舞う。返り血を浴びた少女は恍惚の表情を浮かべる。白い頬に伝う赤い血。少女はそれを手で拭い、舌でなめた。
中村柚月の趣味である。
この哀れな猫はまたあの繁華街の外れのごみ箱に保管されるのだろう。腐臭漂うあの青いポリバケツをまた見なければいけないことに祟り神である男はため息をつく。彼女が殺した動物たちの死骸。いずれその狂気は人間にも向くだろう。
正直、祟り神たる彼から見ると人間が彼女の餌食になろうがならまいがどうでもいい。元々、自分は慈愛溢れる神なのではないのだし。ていうか祟り神だし。また、柚月のことも心配してなどいない。というか早く警察にでも捕まった方がいいと思う。この女は天性の殺戮者であって、更生など絶対にできないと思う。一生牢屋の中にいたほうが世のためだ。早く弱みを握って不幸な目に遭わせておさらばしたい。
しかし、一向に柚月の弱みが見えてこないのである。
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