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オレは時々この中学校を訪れる動機は単純で、ただの失恋だ。
今の恋愛がうまくいかないと、決まってこのケヤキの木の前に来てしまう。
それはここが人生で初めての失恋を味わった場所だからだと思う。
中学生の頃、オレには好きな人がいた。
幼馴染で、とても大切な人だった。
毎日一緒にここへ通い、いつも2人で遊んだ。
それを恋心と自覚したのはいつだったかは覚えていない。
けれど、ある日オレはこのケヤキの木の下で彼女に告白した。
オレは彼女のことが好きで、彼女もオレのことを好いていたと思う。
少なくとも毎日とても楽しそうだった。
けれど、オレの好きと彼女の好きは同じものではなかった。
そして、その告白後なんとなく気まずくなって、友達としても彼女とは会わなくなってしまった。
よくある話だ。
今なら、かつての自分のバカさ加減に呆れられる。やはり、あの頃と今では視点が違うのだろう。
未練はない。もうずいぶん前に終わってしまったことだ。
かつての中学校は壊れてしまって面影もない。この思い出もそういう類いのものだった。
それでも悲しいことがあると、俺は大抵ここへと足を運ぶ。
かつてのことを思い出すでも、後悔するわけでもない。
ただ、なんとなく訪れたくなる。
「……まったく……何が未練はない、だ」
煮え切らない自分に我ながら嫌気が差す。
そう呟いて、いい加減帰ろうと踵を返した。
――ちょうどその時、入り口から車が迫る音がして、そちらへと視線を向ける。
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