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シアンのことを昨日までは完全に少年だと信じて疑いもしなかった。立ち振る舞いに女性らしさなどなかったし、話す言葉だってそうだ。けれどこうして見ると、今度は少年らしさのかけらもない。
「本当にシアン? あの、トカゲを捕まえて得意そうにしていた?」
前回王都であった時、シアンはそれを自慢げに見せてくれた。だいぶ苦労して捕まえたらしく、これを魔法薬にするのだと胸を張っていた姿は、今でも記憶に残っている。
「きゃあ! そんなことまだ覚えてるの!?」
「まだって……たった数ヶ月前の話じゃないか」
「うっ……そ、そうだったわ……でも」
「でも?」
「こうやってバレるなら……見せびらかすんじゃなかった……」
真剣にうなだれるシアンが微笑ましくて、ユーリスはつい吹き出してしまった。
「今の姿でトカゲを嬉々としてつまんでいたら、さぞ面白かっただろうね」
「すっ、するわけないでしょ! こっちの姿では!」
シアンは叫ぶと、膝をたててそこに顔を埋めてしまった。
「……嘘」
ついで聞こえてきたのは、震えるつぶやき。
それからシアンは顔を上げると、その目一杯に涙をためていた。
「シアン?」
「どうしよう、ユーリス……シーツに血がついてる!!」
「え……」
シアンは掛布を体に巻きつけた状態でベッドから降りると、ユーリスにその箇所を指差した。確かに真っ白いシーツに赤茶色い染みがついている。
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