3、シセ

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 ユーリスが静かに近づいて、リデルの右の拳に手を重ねた。大きな両手に包まれて、リデルの強張りが少しずつ抜けていく。そのタイミングを見計らって、ユーリスの長い指先がリデルの拳を開いていった。 「シアンは誰にも言わないと約束してくれた。でも、目撃者がいないとも限らない。……この意味がわかるか?」  王女に手をつけたとなれば、その罪は重い。  そのくらいは想像がつく。  だんだんとぼやける視界の向こうで、ユーリスが微笑んだ。絡められた指先に力がこもって、彼のあいている方の手が今度はリデルの頬に伸びてくる。  その温かさを目を閉じて迎えようとした瞬間、荒々しい風が二人の間を吹き抜けた。 「!?」  先ほどより何倍も強い風は、多くの葉を飛ばし、リデルとユーリスの髪をばたつかせる。土埃が舞い上がって、目に染みた。  けれど、急激な魔力の波動を確かめるべく、リデルは懸命に目を開けた。    翼のはためく音につられて真上を見ると、大きな黒い鳥がこちらへ向かって急降下してくるのが見えた。風を巻き起こしながら、まるで地面のことなんて見えていないかのような勢いだ。しかも滑空しながらまばゆい光を放つものだから、リデルはついに瞼を閉じてしまった。 「きゃあっ!!」 「リデル!」     
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