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ユーリスは軽い調子で言って肩をすくめると、工房内に視線を巡らせた。その途中でリデルと目が合うと、その切れ長の目を少しだけ細めて近づいてくる。
「王都で何かあったの?」
目の前までやってきたユーリスを見上げて、リデルは声をかけた。
軽い気持ちで聞いたことだったけれど、ユーリスの目が何かを含んでいることに気づいて、リデルは息を飲んだ。微笑んでいるはずなのに、どこか困っているような雰囲気がみてとれた。
「……リデルの今日の仕事は、それで終わり?」
ユーリスはここでリデルの質問に答える気はないらしい。リデルに並んで、テーブルの上で淡く光る魔石に視線を移した。
「うん。これから品質を確かめるところだったの」
「手伝うよ」
肩からかけていたカバンをどさりと床に置き、外套は羽織ったままでユーリスは一番端にある魔石を手に取った。若草色に淡く光る魔石は、風属性のものの中でも効果を抑えたもの。ひとたび使用者の魔力をこめれば、爽やかな風が一定時間吹く。雨に濡れたものを乾かしたり、髪を乾かしたりする際に使用されることが多い魔石だった。
ふわりとユーリスから土の香りがする。
冬が近づいて空気が乾燥し始めたから、馬で街道をかける時にいつも以上に砂埃を浴びているのだろう。
リデルはこの香りが好きだった。
長旅からユーリスが自分の元へ帰ってきたことを実感させてくれるからだ。
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