1、兄の告白

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 ユーリスは軽い調子で言って肩をすくめると、工房内に視線を巡らせた。その途中でリデルと目が合うと、その切れ長の目を少しだけ細めて近づいてくる。 「王都で何かあったの?」  目の前までやってきたユーリスを見上げて、リデルは声をかけた。    軽い気持ちで聞いたことだったけれど、ユーリスの目が何かを含んでいることに気づいて、リデルは息を飲んだ。微笑んでいるはずなのに、どこか困っているような雰囲気がみてとれた。 「……リデルの今日の仕事は、それで終わり?」  ユーリスはここでリデルの質問に答える気はないらしい。リデルに並んで、テーブルの上で淡く光る魔石に視線を移した。 「うん。これから品質を確かめるところだったの」 「手伝うよ」  肩からかけていたカバンをどさりと床に置き、外套は羽織ったままでユーリスは一番端にある魔石を手に取った。若草色に淡く光る魔石は、風属性のものの中でも効果を抑えたもの。ひとたび使用者の魔力をこめれば、爽やかな風が一定時間吹く。雨に濡れたものを乾かしたり、髪を乾かしたりする際に使用されることが多い魔石だった。  ふわりとユーリスから土の香りがする。  冬が近づいて空気が乾燥し始めたから、馬で街道をかける時にいつも以上に砂埃を浴びているのだろう。  リデルはこの香りが好きだった。  長旅からユーリスが自分の元へ帰ってきたことを実感させてくれるからだ。     
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