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思わず口を挟んだリデルに、シセは「簡単な話だよ。ユーリスが部屋を出たあと、シンシアは彼女を探していた近衛兵に発見された」と淡々と告げた。
「一国の姫が、宿の部屋に一人。しかもどうやら暴漢に襲われたらしい。……そうなったら、疑うのはまずその部屋の宿泊客でしょ? 帳簿ではユーリスの名前で予約が入ってた。それだけでもう決まりさ」
「……俺はあの部屋なんて借りてないし、彼女を襲ってもいない」
「うん。知ってる」
「彼女だってそれは知ってるはずだ」
「そうだね。でもシンシアの言葉は黙殺されてたよ。かわいそうに」
まるでそう思っていないのがわかる、平坦な声だった。さっきからずっと、シセからは感情の揺らめきが見えない。
リデルがそのことに言及しようとしたところで、先にユーリスが口を開いた。
「お前は……何者だ?」
「僕?」
シセはきょとんと目を丸くした。
「ここでこの質問がくるっていうのは思わなかったなぁ。……僕のこと気になるんだ?」
「そりゃ気になるさ。シアンがシンシア王女だというなら、ずっと一緒にいたお前は? そして、ここに何をしに来た?」
ふふっと声を出して、シセは笑った。
一人だけ楽しそうな様子は、この森の中で浮いている。彼の纏う黒い魔力にあてられたのか、精霊たちもしんと静まりかえって彼の一挙一動を見守っているようだ。
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