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そっと扉に耳をつけて、中の様子を伺う。かたん、ことんと何かを動かして置く音と衣擦れの音。声は何も聞こえないから、中にいるのは一人……だろうか。
もっと耳をこらそうとしたところで、内側からノックの音が響いた。
「!!」
驚いて飛び退くリデルの姿さえ見えているかのようなタイミングで、扉が開かれる。中から顔を出したのはシセだった。白いシャツに七分丈のズボンという軽快な出で立ちで、先ほどよりも随分と幼く見える。
「思ったより早く目が覚めたんだね」
シセはにこっと笑って扉を開け放ち、リデルを室内へと誘った。
さきほどリデルがいた部屋と同じ広さではあるが、その中はまるで違う。壁を埋め尽くすかのように置かれた棚には薬瓶や魔石、ハーブなどが並んでいる。部屋の中央には作業台があり、まるで魔石工房の作業場のようだ。
シセは何かの薬を作っていたらしく、部屋の隅にある火鉢の上には、小さな鍋がのっていた。そこになにが入っているのかはわからないけれど、妙に甘ったるい香りが部屋中に漂っている。
「お兄ちゃんはどこ?」
「……ユーリスからもまずそれを聞かれたよ」
一度鍋の中身をかきまぜてから、シセは入り口付近に立ったままのリデルに近づいて来た。こうしてしっかり向かい合うと、彼の目線はリデルとほぼ同じ。ユーリスの話では十八歳ということだったけれど、その容貌からはとても自分と同い年には見えなかった。
明るいところで見ると、亜麻色の髪の毛は一本一本が透き通るように細く、光を反射して輝いている。どこか神々しいまでのきらめきは、眩しくもないのに目を細めそうになってしまうほどだ。
「彼も少し前に目が覚めて、一つ用事をお願いしてる。夜になったら会えるよ」
「……本当に? 無事なの?」
「うん」
疑いをおおいに含んだ視線を受けても、シセは特に表情も変えず「君は僕の手伝いをしてくれる? 早く終われば、その分早くユーリスに会えるよ」と告げる。そうして棚の引き出しから黒い手袋を出してくると、それをリデルへ差し出した。
「森に降りよう。これをつけて」
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