163人が本棚に入れています
本棚に追加
とりわけリデルは、ほぼ毎日この森の中で魔石を作っている。今日の風の魔石だって、ここでひたすら風の精霊たちと錬成したものだ。もはやここは慣れ親しんだ庭のようなものだった。
精霊たちも侵入者がリデルとユーリスであることに気づいたのか、警戒をとくかのように森は静かになった。
「もうすぐ日も暮れるし、あんまり奥は嫌だよ?」
ずんずんと先を行くユーリスに声をかけながら、リデルも小走りで追いかけて行く。
その彼女のすぐそばで『あれ? またきたの?』と甲高いささやき声がした。ひゅっと優しい風が、リデルの切りそろえられた黒髪をなびかせる。
その声はさっき魔石を作る時に手伝ってもらった風の精霊だ。
再びリデルが森に入ってきたから、不思議に思ったのだろう。
「お兄ちゃんが急にここに連れてきてさ……」
『ふうん……いつになくユーリスの魔力が乱れてるね』
「やっぱりそう思う?」
風の精霊は答えの代わりにひゅっと強めの追い風となって、リデルの背を押した。
そしてそのまま気配が消えたから、一陣の風のまま立ち去ってしまったのだろう。風の精霊は気まぐれだ。
それを待っていたのか、それとも偶然か。ユーリスは足を止めた。
「このあたりでいいかな」
言いながら大木に背を預け腕組みをしながら、リデルの方を見た。
「ちょっと困ったことになった」
最初のコメントを投稿しよう!