1、兄の告白

6/7
前へ
/184ページ
次へ
 軽い口調で口元は笑みの形を作っているけれど、事態はそう簡単なことじゃないだろう。一人だけ日程を早めて帰ってきたこと。人払いをするかのようにこの森に連れてきたこと。言葉よりもその行動が、彼の抱えるものの大きさを表している。 「……俺はもしかしたら追われる立場になるかもしれない」 「えっ……!?」  リデルの脳裏に浮かんだのは、三年前の春の日の出来事。全てを燃やし尽くすような業火の中、ユーリスと手を取り合って逃げ出した……。 「違う、それじゃない」  リデルの回想などお見通しなのか、ユーリスは安心させるようにリデルの肩に触れた。もう一度「それじゃなくて」と否定をした後で「……俺はどうやら、とんでもない人の純潔を奪ったらしい」と低い声で告げた。  ……今、なんて言った?    とっさに何の反応も返せなかった。  石のように固まったリデルを見つめて、ユーリスは少しだけおどけた口調で「まったく身に覚えはないんだけどな」と笑う。 「とんでもない人って……誰のこと?」 「……シンシア王女」  この国の第一王女の名前が出てきて、リデルは再び自分の耳を疑った。  とんでもないどころの話じゃない。シンシア王女と言ったら、確か隣国の王子との結婚が決まっていたはずだ。春になったら、その王子が婿入りしてくる予定のはず。  その王女様とユーリスが?  しかも純潔を奪ったって……? 「な、なんで!?」 「いやほんと、俺も知りたい」     
/184ページ

最初のコメントを投稿しよう!

163人が本棚に入れています
本棚に追加