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軽い口調で口元は笑みの形を作っているけれど、事態はそう簡単なことじゃないだろう。一人だけ日程を早めて帰ってきたこと。人払いをするかのようにこの森に連れてきたこと。言葉よりもその行動が、彼の抱えるものの大きさを表している。
「……俺はもしかしたら追われる立場になるかもしれない」
「えっ……!?」
リデルの脳裏に浮かんだのは、三年前の春の日の出来事。全てを燃やし尽くすような業火の中、ユーリスと手を取り合って逃げ出した……。
「違う、それじゃない」
リデルの回想などお見通しなのか、ユーリスは安心させるようにリデルの肩に触れた。もう一度「それじゃなくて」と否定をした後で「……俺はどうやら、とんでもない人の純潔を奪ったらしい」と低い声で告げた。
……今、なんて言った?
とっさに何の反応も返せなかった。
石のように固まったリデルを見つめて、ユーリスは少しだけおどけた口調で「まったく身に覚えはないんだけどな」と笑う。
「とんでもない人って……誰のこと?」
「……シンシア王女」
この国の第一王女の名前が出てきて、リデルは再び自分の耳を疑った。
とんでもないどころの話じゃない。シンシア王女と言ったら、確か隣国の王子との結婚が決まっていたはずだ。春になったら、その王子が婿入りしてくる予定のはず。
その王女様とユーリスが?
しかも純潔を奪ったって……?
「な、なんで!?」
「いやほんと、俺も知りたい」
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