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4、森の古城
『助けに来たって言ったじゃん』
甲高い少年の声が、頭の奥で響いている。
それに気づいて、リデルの意識は覚醒した。
「お兄ちゃん!」
叫びながら目を開けると、目の前に広がるのは森ではなかった。体を起こせば、自分の身はベッドの上にあると気づく。柔らかなシーツの手触りと、自分の体にかかっていた毛布。
リデルは、どこかの部屋の中にいた。
石の壁に囲まれた丸い部屋。今リデルが眠っていたベッドの他に、小さなテーブルと椅子があるだけの簡素な部屋だった。
「ここ……どこ?」
リデルは呟いて、まずはベッドからおりたった。愛用のショートブーツがベッド下に並んでいるのを見て、ほっと息をつく。洋服もさっきまで着ていたチュニックのままだ。
たった一つある小さな窓のよろい戸を開けてみると、目の前に広がるのは真っ青の空だった。
「え……?」
高い!
おそるおそる窓から顔を出してみると、眼下には深い緑が広がっている。地平線までその緑で敷き詰められているから、相当大きな森なのだろう。
さらに身を乗り出して、建物の真下を確認すると、どうやらこの場所は塔の上階であるらしいことがわかった。石が敷き詰められた外壁は、ところどころ傷ついて欠けていて古めかしい。そして塔の隣には、同じく石造りの城が見える。
まるで知らない風景だった。
そして頬をなでる風がまるで違うことも、リデルを驚かせた。冬の始まりの風は冷たく硬いものなのに、頬をくすぐるそれはあたたかく柔らかい。
一体どこまで遠くに来てしまったのだろう。
あの時、ユーリスが短剣を抜いてからの記憶がない。
閃光が走り、リデルは意識を失ってしまったのだ。
「……お兄ちゃん……」
ふくれあがる不安を必死で抱えながら、リデルは窓から離れ、木製の扉に駆け寄った。幸い鍵はかかっていないようで、勢い良く押すと思った以上にスムーズに扉は開いた。
小さな踊り場と、下へと続く階段。
リデルは一瞬の迷いの後で足を踏み出した。薄暗くはあったけれど、小さな窓から差し込む光と張り出し棚に置かれたろうそくの炎のおかげで足元は悪くない。円を描くような階段を駆け下りた先にあるのは、先ほどと同じような木製の扉だった。
なにやら物音が聞こえて来るから、中に誰かいるらしい。
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