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風がそっと前髪に触れた。
その感触でセレは目が覚めた。
心地よい風だった。
…初夏だな。多分5番目の季節だろう…
ゆっくりと目を開けて、起き上がった。
目に飛び込んで来たのは草原だった。なだらかな斜面に広がる若草色。
『…ここは何処だ?』
自分の部屋で意識を失った筈だったのに…
『あの時、死んだものと思っていたが…?』
セレはあの時、大地の巨大なエネルギーの放出を誰よりも早く感じ取った。
あと2ヶ月程で22才の誕生日を迎える。そんな時だった。
大地の魔法が使える彼は、大地の変化には敏感だ。
…どこまで抑えられるか…
セレは生まれつき心臓に異常があった。
成長と共に進行するもので、この頃にはかなり進んでおり、大きな魔法を使ったら命が保たない事は分かっていた。
でも 「護りたかった」のだ。
彼は祖国ロストークが大好きだった。
セレは王族だった。それも第一王子だ。本来なら王太子として王宮で暮らしている筈だ。
しかし心臓に重い病を持って生まれたせいで、王の務めは果たせそうもなかった。
『ならば、初めから存在しなかった事にしよう』
王を取り巻く重臣達はそう考えた。
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