第1章 風の中

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風がそっと前髪に触れた。 その感触でセレは目が覚めた。 心地よい風だった。 …初夏だな。多分5番目の季節だろう… ゆっくりと目を開けて、起き上がった。 目に飛び込んで来たのは草原だった。なだらかな斜面に広がる若草色。 『…ここは何処だ?』 自分の部屋で意識を失った筈だったのに… 『あの時、死んだものと思っていたが…?』 セレはあの時、大地の巨大なエネルギーの放出を誰よりも早く感じ取った。 あと2ヶ月程で22才の誕生日を迎える。そんな時だった。 大地の魔法が使える彼は、大地の変化には敏感だ。 …どこまで抑えられるか… セレは生まれつき心臓に異常があった。 成長と共に進行するもので、この頃にはかなり進んでおり、大きな魔法を使ったら命が保たない事は分かっていた。 でも 「護りたかった」のだ。 彼は祖国ロストークが大好きだった。 セレは王族だった。それも第一王子だ。本来なら王太子として王宮で暮らしている筈だ。 しかし心臓に重い病を持って生まれたせいで、王の務めは果たせそうもなかった。 『ならば、初めから存在しなかった事にしよう』 王を取り巻く重臣達はそう考えた。
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