第1章 風の中

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そんな事は露ほども知らず、セレは離宮でなんの不満も言わずに日々を送っていた。 ヴァシュロークはセレに自分の持てる限りの全てを教え込んだ。 「叩き込んだ」と言った方がいいかもしれない。 『人間として』『王族として』『魔法使いとして』の知識、心構え、 在り方、を厳しく伝授した。 セレはヴァシュロークが思っていたよりも遥かに多くを吸収した。理解度も高かった。 『賢い子だ』とヴァシュロークは感じた。 可能な限り外へも連れ出した。 庶民の生活・作業の現場から、至高の芸術の舞台まで。とにかく幅広く、偏りなく触れさせ、時には体験させた。 セレは広い視野と深い見識を持った人間に育っていった。 …埋もれさせておくのは惜しい… 段々ヴァシュロークはそう思う様になったが、年々、セレの心臓は弱っていった。 15才の誕生日を迎える頃には、離宮内の階段の上り下りだけで心臓が苦しくなる程で、ほとんど外には出られなくなってしまった。 ヴァシュロークにも、どうする事も出来ないまま月日が流れて行った。 何とかセレは18才の成人の儀を迎えた。 王族の正装をした姿は、やはり王家の血を感じさせる威厳があった。
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