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そんな事は露ほども知らず、セレは離宮でなんの不満も言わずに日々を送っていた。
ヴァシュロークはセレに自分の持てる限りの全てを教え込んだ。
「叩き込んだ」と言った方がいいかもしれない。
『人間として』『王族として』『魔法使いとして』の知識、心構え、 在り方、を厳しく伝授した。
セレはヴァシュロークが思っていたよりも遥かに多くを吸収した。理解度も高かった。
『賢い子だ』とヴァシュロークは感じた。
可能な限り外へも連れ出した。
庶民の生活・作業の現場から、至高の芸術の舞台まで。とにかく幅広く、偏りなく触れさせ、時には体験させた。
セレは広い視野と深い見識を持った人間に育っていった。
…埋もれさせておくのは惜しい…
段々ヴァシュロークはそう思う様になったが、年々、セレの心臓は弱っていった。
15才の誕生日を迎える頃には、離宮内の階段の上り下りだけで心臓が苦しくなる程で、ほとんど外には出られなくなってしまった。
ヴァシュロークにも、どうする事も出来ないまま月日が流れて行った。
何とかセレは18才の成人の儀を迎えた。
王族の正装をした姿は、やはり王家の血を感じさせる威厳があった。
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