第一章・曖昧な職員たち

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「よーし、これで薬草も採れるね!」 コボルトが全滅した後に改めて見回せば、いかにも苦そうな濃い緑色の薬草たち……すなわち、今回のターゲットが無事であることも改めて確認できた。 「はい! あ、でも……一応残りがいないか周りを確認しませんか?」 「そだね、あまりに呆気なくてまだ強化魔法も残ってるし、このまま前衛やっちゃうよぉ! マグナちゃんはあたしが守るぅ!」 フェンは久しぶりに採取課らしい仕事で、しかも前衛の役割を少しは果たせたことでとても嬉しそうだ。 腕まくりをして、巣のある方へスキップで駆けていくフェン。 「あっ、あんまり先行するのは……!」 マグナがすぐにそう言うものの…… 「大丈夫! マグナちゃんの防御力魔法はまだかかってるから! 前衛は任せて!!」 フェンは久しぶりの仕事ということもあり張り切りすぎていて、簡単に言えば油断していた。 穴から奇襲をかけるようにやや一回り大きな白い肌のコボルトが現れた。大きな樽を背負った一風変わったその魔物は、フェンに不意打ちで短剣を振り下ろす。 「っ……!」 咄嗟にかわそうとするが、フェンの左腕に短剣が掠める。攻撃力は高くはないようで、防御力の上がったその肌には掠った程度ではダメージは入らない。 「……びっくりした……防御力上がってなかったら、危なかったかも……って、これ、ソルトコボルトじゃん。なんでこんなところに……?」 フェンはぶつぶつ言いながら、再び剣に炎を纏わせる。 ソルトコボルトは、本来は南の島国に生息している、海塩を自ら精製し持ち歩くという性質を持った不思議なコボルトである。 彼女が油断したのは、直前のコボルトが弱かったこと、今回の依頼が簡単であると聞いていたこと、マグナの魔法がかかっていたことなど、様々な理由があったが、どちらにせよ隙を晒してしまったことに変わりはなかった。
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